займ на карту онлайн

「烏賊と泳いだ日」

10年程前まで、7月から9月までの3か月間ほど、よくに行っていた。特に私は9月によく泳いでいた。私が行っていた海水浴場は、9月にかけてが、最も水温がぬるく、安定していたからだ。7月の海や、場合によっては8月までは、気持ちよく泳ごうとしても、温かい海水と冷たい海水を交互に横切るため、あまり心地よくないことが多かった。その点9月はどこもかしこもぬるかった。当時、私は友人とほぼ毎週そこに行き、30mから40mほど先にある人口島まで泳いでは、そこに上陸し、今来た岸の方をどこか満足気に振り返り眺めた後、人工島の周りをゆっくりと泳ぐことを習慣としていた。
水中には数百個のテトラポットがどう見ても無造作に並べられていたが、実際は綿密に計算の上、計画的に置かれているらしい。太陽が強く、いたる所で照り返す波が賑やかで、しかし、青く、ときにコバルトブルーに変わる海に入る。たまに魚が通る。青く小さな熱帯魚のような魚や、20cmくらいの黒い魚がいる。ふと見ると、半透明の生き物が縦一列に優雅に泳いでいる。左右のひれをゆっくり上下に動かしながら。5、6匹はいるだろうか。まるで、大きいトトロ、中くらいのトトロ、小さいトトロのような感じで。先頭は体長20cmくらい、あとは10cm前後である。どうやら烏賊の家族と遭遇したらしい。私は並走しながら、徐々に近づいて行く。「手でも振ってみようか」と思っていると、烏賊の親子は皆ほぼ同時にピッピッピッと墨を吐いて、泳ぎが速まった。私は驚いた。かすかに白い体が靄(もや)に包まれ、ますます見えにくくなった。私は彼らからそっと距離を取った。しばらくすると烏賊の親子は少しずつ、足を緩め、元のゆっくりとした泳ぎを取り戻した。海の中はやや紺がかって薄暗く、次第に見えなくなって行った。(所)

コメントは受け付けていません。



Top