「烏賊と泳いだ日」
水中には数百個のテトラポットがどう見ても無造作に並べられていたが、実際は綿密に計算の上、計画的に置かれているらしい。太陽が強く、いたる所で照り返す波が賑やかで、しかし、青く、ときにコバルトブルーに変わる海に入る。たまに魚が通る。青く小さな熱帯魚のような魚や、20cmくらいの黒い魚がいる。ふと見ると、半透明の生き物が縦一列に優雅に泳いでいる。左右のひれをゆっくり上下に動かしながら。5、6匹はいるだろうか。まるで、大きいトトロ、中くらいのトトロ、小さいトトロのような感じで。先頭は体長20cmくらい、あとは10cm前後である。どうやら烏賊の家族と遭遇したらしい。私は並走しながら、徐々に近づいて行く。「手でも振ってみようか」と思っていると、烏賊の親子は皆ほぼ同時にピッピッピッと墨を吐いて、泳ぎが速まった。私は驚いた。かすかに白い体が靄(もや)に包まれ、ますます見えにくくなった。私は彼らからそっと距離を取った。しばらくすると烏賊の親子は少しずつ、足を緩め、元のゆっくりとした泳ぎを取り戻した。海の中はやや紺がかって薄暗く、次第に見えなくなって行った。(所)

2022年11月1日9:00 AM カテゴリー:ブログ